食べ物とか旅行とか

東京在住 アラサー社会人の備忘録です。

サウスバウンド 奥田英朗

 "人間は、欲ばりじゃなければ法りつも武器もいらないと思います。これはただの理想かもしれませんが、島の人たちを見ていると、そんな気がします。もし地球上にこの島しかなかったら、戦争は一度もおきていないと思います。" 
 サウスバウンド 奥田英朗 角川文庫



 休日出勤やら代わりのいきなり代休やらで旅行することもできず実家で暇をしていたので、昔古本屋で買っていた文庫本を読みあさる。奥田英朗を初めて読んだのは成田空港で。初めての渡印にして留学へと向かう成田空港で、なぜかエアインディアは6時間飛ばなかった。なぜか、エンジンに問題があって部品を交換していたから?客室の屋根裏で誰かが走っていてドタドタなんて音、初めて聞いたよ。この時読み始めたのが友人にもらった「最悪」というタイトルの小説。新たな国で新たな生活のスタート!って時にこのタイトルどーなの、と思うけど、内容はおもしろかった。


 今回はサウスバウンド。はさまっていたしおりを見ると、映画化もされていたらしい。ふーむ。上下巻に分かれているのだけど、話の展開的にちょうどよいタイミングで区切りをつけている。これは読んでいる方としても気持ちがよい。主人公の父は右翼っぽくて(たとえに早稲田が出て来た)、主人公はいじめにあいそうになって、姉は不倫をしていそうで、背伸びをしたがる年頃の妹が居て、という中野が舞台のストーリー。知っている街が出てくるのは読んでいてわくわくする。文章がおもしろい点の1つに、主人公の心境表現がとても自然だということ。読者への説明を重視したいびつな文章ではなく、主人公の気持ちをなぞっていけばそのままストーリーに入り込めるような気がした。


 大学で右翼活動はよく見かけていたので、主人公の父親の雰囲気もなんとなく想像がつくような感じ。確かにこんな熊ぽい人がいつも警備員とけんかしてたなーみたいな笑。しかし、単なる難癖つけるだけではなく、意外とものごとの本質を見抜き、芯がしっかりしている父親だ。移住後の生活を見ていると、ああ、ほんとにこんな生活が人間の求めるほんとのしあわせなんじゃないかと思えてくる。さりげなく、戦争に対するメッセージもこもっていて、それは右翼っぽい父親の姿と少し重なりつつも、少年の正直な気持ちなんだろうなあ。といった感じ。どきどきと安らぎがうまい具合にミックスされた、この季節にちょうどよいと思う小説。